ケイマン諸島は、投資ファンド設立に最も人気のあるオフショア法域ですが、英領バージン諸島(BVI)も、多種多様のファンドの選択肢があり、ケイマン諸島に代わるオフショアファンドの設立法域として検討するに値します。さらにBVIは、過剰な規制を避けるためのオフショア運用業者の設立法域の選択肢となります。

本文書では、BVIにおいてファンドが活用できる各種オプションの概要をご紹介いたします。

BVI投資ファンド

BVI投資ファンドは、会社、リミテッドパートナーシップまたはユニットトラストのいずれかの形態で組成することができます。BVI会社型ファンドは、オープンエンド型ファンドを設立する際に最も一般的な形態です。クローズドエンド型ファンドは、リミテッドパートナーシップの形態で設立されることが多いです。

オープンエンド型・クローズドエンド型を問わず、BVI投資ファンドは主に、2010年証券投資事業法で規制されています。

オープンエンド型ファンド

オープンエンド型ファンドには、より機関投資家向けの「プロフェッショナルファンド」と「プライベートファンド」があり、より低コストの新興スタートアップ運用者等向けのファンドとして「インキュベーターファンド」と「承認ファンド」があります。

プロフェッショナルファンドとプライベートファンド

  • プロフェッショナルファンドは、運用資産や投資家数の制限がありませんが、プロフェッショナル投資家のみ募集でき、各投資家の最低初期投資額は100,000米ドルです(但し、運用者やプロモーターの従業員等は除かれます)。
  • プライベートファンドには、運用資産額の上限や投資家の資格要件及び最低初期投資額はありませんが、投資家数は50名までです(但し、特定の要件を満たす私募の場合、50名を超えることが許容されることがあります)。

各ファンドは、明確且つ包括的なファンド資産の評価方針及びかかる方針の有効性を担保する手続を定める必要があります。募集書類は通常は作成されますが、潜在的な投資家に情報を伝えるそれ以外の手段を金融サービス委員会(FSC)が十分と認めれば、募集書類の作成及び提出は免除されます。

各プロフェッショナルファンド及びプライベートファンドは、2名以上の取締役が必要で、1名以上の取締役は個人でなければなりません。

またこれら各ファンドは、免除される場合を除き、ファンド運用者、ファンドアドミニストレーター及びカストディアンを常置する必要があります。

さらに、これら各ファンドは監査人の設置が義務付けられ、会計年度終了後6ヶ月以内に監査済財務諸表の写しをFSCに提出する必要があります。

これら各ファンドは、マネーロンダリング防止報告担当者の任命等、関連マネーロンダリング防止法・規制を遵守する必要があります。

承認ファンドとインキュベーターファンド

BVI承認ファンドとインキュベーターファンドは、最もコスト効率が良い方法でトラックレコードを作り、その投資戦略の有効性を証明したいスタートアップや新興マネジャーに適した、規制の少ないファンドです。

  • 承認ファンド:ファンドアドミニストレーターのみが、任命が必須のサービスプロバイダーです。投資家の資格要件及び最低初期投資額はありません。承認ファンドは、投資戦略及び一定のリスクファクターが記載された文書を投資家に提供する必要がありますが、それ以外に募集書類を作成する必要はありません。但し、運用資産額は1億米ドル、投資家数は20名をそれぞれ超えることができず、いずれかを超えた場合は、別種ファンド(プライベートファンドやプロフェッショナルファンド等)に転換するか、清算する必要があります。
  • インキュベーターファンド:任命が必須のサービスプロバイダーはありません。但し、運用資産額は2千万米ドル、投資家数は20名をそれぞれ超えることができず、各投資家の初期投資額は2万米ドル以上です。また、ファンドの期間は最長 2 年まで(但しFSCが許可する場合は、12ヶ月まで延長が可能)で、期間が満了後は別種ファンドに転換するか、清算する必要があります。

各承認ファンド及びインキュベーターファンドは2名の取締役が必要で、うち1名の取締役は個人である必要があり、申請時にかかる個人取締役の履歴書をFSCに提出する必要があります。また、これら各ファンドはBVIに代表者を置く必要があります。

インキュベーターファンドの利点は、目論見書、認可投資運用者、アドミニストレーター、カストディアン及び監査人がいずれも不要なことです。一方、投資家に対しては、投資戦略及びファンドに投資するリスクを含むリスク概要の文書を提供する義務があります。

インキュベーターファンドは、その資格要件を確認する半期申告書をFSCに提出します。

いずれのファンドも、年次申告書及び年次財務諸表の提出が義務付けられますが、これらの監査は不要です。

インキュベーターファンドと承認ファンドは、申請書の提出後2営業日以内に運用を開始することができ、迅速にマーケットに参入できます。 このように、インキュベーターファンド及び承認ファンドは、設立維持費用の削減、マーケット参入の迅速化、サービスプロバイダー任命の柔軟性により、BVIファンドの新たな選択肢として多くの活用が見込まれます。

BVIオープンエンド型ファンドの比較 – 主な特徴

最大投資家数 各投資家の最低投資額 投資家の資格 最大運用資産 ファンド期間
インキュベーターファンド 20 2万米ドル なし 2千万米ドル 2年(+1年の延長可能)
承認ファンド 20 なし なし 1億米ドル 制限なし
プライベートファンド 50* なし なし 制限なし 制限なし
プロフェッショナルファンド 制限なし 10万米ドル** 純資産100万米ドル以上または「プロフェッショナル投資家」 制限なし 制限なし
* 特定の人物に対してのみ、または私的もしくは仕事上の関係で、プライベートに引受の勧誘を行う場合、この数を超えることも可能です。
** 運用者やプロモーターの関連者については一定の免除があります。

クローズドエンド型ファンド – プライベート投資ファンドクローズドエンド型ファンド – プライベート投資ファンド

プライベート投資ファンドの典型例は、プライベートエクイティ、不動産、ベンチャーキャピタル、インフラストラクチャー及びプライベートクレジットファンドです。 プライベート投資ファンドとしてFSCの承認を受けるには、その組成文書に以下を明記する必要があります。(i) 投資家が50名以下である、 (ii) ファンドの株式または持分の引受もしくは購入の勧誘を私募のみで行う、または (iii) ファンドの株式または持分がプロフェッショナル投資家のみに提供され、各投資家(一定の免除投資家を除く)の初期投資額が10万米ドルまたは他通貨での同等額以上であること

投資家または潜在的な投資家に対するプライベート投資ファンドのファンド持分の購入または引受の募集もしくは勧誘は、募集書類またはタームシートで行います。 募集書類やタームシートは、ファンドがFSCからプライベート投資ファンドとして承認されている旨を明記し、以下の内容の記載が必要です。

  1. (i) ファンドが50名までの 投資家のみを対象とし、またはファンド持分の引受の勧誘が特定の条件を満たす私募のみで行われる、または (ii) ファンドがプロフェッショナル投資家のみを対象とし、各投資家の最低投資額が10万米ドル(またはファンドによってはそれ以上の金額)であること
  2. ファンドの投資目的
  3. 投資家がファンド持分の償還または撤回を要求する権利を有しない旨の表明
  4. ファンド資産を運用、価値評価及び保管する者の氏名及び住所
  5. ファンドが支払う費用

プライベート投資ファンドは、募集書類やタームシートを作成しない場合は、FSCにその理由を提示し、投資家や潜在的投資家にファンド及び勧誘や募集に関する情報を提供する方法を説明する必要があります。

プライベート投資ファンドは、簡単な申請書に必要事項を記入し、申請手数料およびファンドに関する以下の添付書類と併せ、FSCに提出してください。(i) 設立証明書、(ii) 基幹文書、 (iii) 取締役登記簿(会社型の場合)、 (iv) 各取締役、ジェネラルパートナーまたはトラスティーの取締役の履歴書、 (v) 募集書類またはタームシート、および (vi) ファンドの資産価値評価方針。

新規のプライベート投資ファンドは、事業開始後14日以内にかかる申請を行うことを条件として、申請前の 21 日間事業を行えます。

運用者 – BVI承認マネージャー

運用業者は多くの法域で細かく規制されており、運用業者の設立及び規制遵守には、費用と時間がかかりますが、運用業者としてBVIに「承認マネージャー」を設立することにより、かかる問題が解決できます。BVI籍ファンドと共に設立することにより、規制当局を一ヵ所にする管理上のメリットがありますが、ケイマン諸島籍ファンドの運用業者としてかかるBVI承認マネージャーを設立することもあります。

承認マネージャーの登録手続は簡易で、BVIに人員を配置する必要はありません。 FSCの規制は受けますがその継続的義務は限定的で、これが承認マネージャーの大きな魅力のひとつです。

承認マネージャーは、オープンエンド型ファンドで4億米ドル、クローズドエンド型ファンドで10億米ドルの運用資産総額の上限があります。 また承認マネージャーは、BVIの反マネーロンダリング/テロ資金供与防止体制を遵守し、反マネーロンダリングオフィサーを任命する必要があります。さらに、年次申告書と財務諸表を提出する必要がありますが、財務諸表の監査は不要です。

FSCは、承認マネージャーに係る者の資質が 「適正且つ適切」であることを確認する必要があります。 承認マネージャーは、申請書提出後7日以内にFSCから疑義がなければ、事業を開始できます。

まとめ

ケイマン諸島はオフショアファンド市場を牽引する法域ですが、BVIにも検討に値する魅力的な選択肢があります。

さらに、BVIの「承認マネージャー」制度は、厳しく規制された運用業者に代わる、より緩やかな規制に服する代替手段をお探しの方にご検討いただけます。

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ファンドを組成するには、個々の状況を踏まえた助言を専門家から受ける必要があります。BVI籍投資ファンドやBVI承認マネージャーの組成に関してご質問があれば、コンヤーズの担当者または以下いずれかの弁護士までご連絡ください。

本記事は、法的助言や法律意見ではありません。本記事は、簡単な概要及び一般的な情報を提供することのみを目的としています。

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